実際にあった遺産”争”続② ~親の会社から受け取った給料は実質贈与?~

 

 

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給料袋

相続頑張るFPです。

今回は私が信託銀行で勤めていた時に実際に経験した兄弟間の「争続」事例をご紹介します。

親の会社から支払われた給料は生前贈与?

今回ご紹介するのは親が経営する会社から支払われている給料は実質的に生前贈与であったと主張したことによって兄弟間で意見が相違してしまったケースです。

相続が発生した際の状況は以下の通りです。

被相続人:従業員10人程度の会社の元経営者。妻は既に他界
長男:父親の会社を引き継ぎ会社を経営
次男:一般企業に就職するも続かず退職。父に拾われる形で約20年間父親が経営する会社で勤務(勤務を始めた時は兄は役員)。社長が兄に交代した後、兄と折り合いが合わず退職。以降は定職にはついていない。

財産 ①自社株 ②自宅兼投資用不動産 ③金融資産約1億円

兄弟が不仲だったこともあり、被相続人は生前に遺言を作成していました。 被相続人が遺した遺言の内容は以下の通りです。

長男:自社株と金融資産の半分を相続
次男:自宅兼投資用不動産と金融資産の半分を相続
付言事項:無し

長男、次男ともに一旦はこの配分で納得したものの長男が後にあることを主張しました。

その内容とは「次男は会社に雇われて給料をもらっていたが、実質的に働いていなかったので生前贈与扱いではないか」と言う内容です。

次男は約20年間、年収約400万円を受け取っていました。 受け取った給与の総額は8,000万円です。 長男は8,000万円を既に受け取っているようなものなので、被相続人の金融資産は現在残っている金融資産1億円とあわせて1億8,000万円。
次男は既に8,000万円受け取っているので、金融資産を半分に分けるということはあと1,000万円を次男が相続し、残りは長男が相続するべきだとの主張でした。

実際に次男がしていたことは自宅にかかってくる電話の取り次ぎのみで、電話がかかってきた時以外は自宅では仕事をしていない状態でした。

長男は仕事内容に対し、明らかに給料が多かったため次男がもらっていた給料は実質的に生前贈与であると主張したのです。 これに対し次男は猛反発。

次男は仕事をして給料をもらっていたと主張を繰り返しました。 このまま双方の主張は真っ向から対立しましたが、最終的には長男が全面的に折れる形で決着しました。

しかし、長男は納得のうえ折れたわけじゃなく、様々な手続きをすすめるために渋々次男の主張を呑んだ形。 以後、兄弟はますます疎遠になったことは言うまでもありません

被相続人はどうすればよかったのか

今回の被相続人である親は子供たち二人のことを考え遺言まで作成していました。
しかし、残念ながら結果としては相続人二人が異なった主張を繰り返し、不本意な結果となってしまいました。今回のケースではどうすれば争続となることを防げたのでしょうか。

まず一つ考えられるのは次男を会社で雇用して給料を渡すことを長男に相談しておくべきだったと言えるでしょう。

しっかりした長男に対し、次男は定職につかず生活が苦しい状況でした。 その次男を助けるために生活を援助するということは親ならば不自然なことではありません。

ただし、被相続人は会社の経営者であり、後に長男に会社を引き継いでいます。 次男の生活援助のために次男を会社で雇って給料も払うのであれば既に役員となっていた長男に一言相談があった方が良かったかもしれません

事前の説明がなかったことで、長男の次男や父に対する不信感が強まった可能性は否定できないでしょう。このように過去のことが相続に影響することはよくあることです。お金に絡む決断をする時は相続が発生する際に揉める原因とならないか、注意しておく必要があります。

2つ目の対策としては遺言を作成した時点で長男と次男に配分を説明しておくということ。 遺言は作成しておけば準備は完了と思ってしまう方も少なくありません。

しかし、遺言の内容を見て納得いかない人が争いを始めては遺言を書いても意味がありません。今回のケースでも遺言の内容をしっかりと子供達に説明しておけば兄弟間の争いは防げた可能性は高いでしょう。

生前に話すことが難しい場合は付言事項に理由を示しておく方法も有効な手段です。付言事項とは遺言を作成するにあたって相続人に書き残すことができるメッセージ。

付言事項になぜこの配分にしたのか、相続人である子供二人に説明を書き記しておけば長男も配分に納得した可能性が高いと言えるでしょう。

また、今回のように明らかに不公平だと相続人間で疑念を持たれるようなことはできるだけ避けた方が良いでしょう。今回のケースでは一生懸命働いた長男には働きもせず給料をもらう次男に対し不公平感を抱いています。

同じような不公平感を抱く可能性がある事象は多々あります。

例えば、家賃を払わずに所有不動産に住まわせたり、孫の教育資金として多額の援助をするなど様々。 ご自身があまり意識していないことでも相続人が強い不公平感を抱いているケースもあるので注意が必要です。

「遺言書いたら大丈夫」は間違い

相続人間での揉め事を防ぐために遺言を書いておくことは非常に有効な手段です。
相続によって発生する揉め事の多くが遺言さえ書いておけば防げるものも多くあります。

しかし、遺言を書いておけば大丈夫かと言うと必ずしもそうではありません。確かに、遺言を書いておけば表面上はスムーズに分けられる可能性が高いしれません。

しかし、せっかく遺言を書いていてもその真意が伝わらなければ「なんでこんな配分なんだ」という相続人間での不信感を拭い去ることはできないのです。

このような事態を避けるために有効な手段が生前に話しておくことや付言事項でこの配分にした理由を説明することです。せっかくの遺言を無駄にしないためにも遺言を書いた後の配慮も忘れないようにしましょう